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1.最後に見たのは 君の笑顔だった

豪炎寺修也は俺の最高の親友だった。
小学生の頃からの付き合いで、サッカーを始めたのも修也と仲良くなってからだった。
修也は俺と出会ったときからすごくサッカーが上手くて、そんな修也に負けたくなくて、隣に並びたくて必死になってサッカーの練習に励んでいたのを覚えている。
あの頃の俺は修也が一番だった。
もちろん両親は大好きだし、修也の他にも仲のいい友達はいたけれど。
俺にとって修也は、小さい子供にとっての戦隊物のヒーローで、つまりは、そう。
憧れだった。
中学も修也と一緒に木戸川に入って、ずっと一緒にサッカーを続けていくんだと思っていた。




中学最初のフットボールフロンティア決勝戦。
修也の妹の夕香ちゃんとも仲が良かった俺にもあの子は応援していると言ってくれた。
あの日の決勝戦もスタジアムに見に来ると言っていた。
修也も俺もお互いに頑張ろうな、と言い合って笑っていたんだ。
なのに、試合が始まる直前。
修也に電話が来たと言って席を外した修也は、そのままその日は帰って来なかった。
帝国戦は、俺も頑張ったけれど、結局は負けてしまった。

だけど、それはいい。
もう終わったことだから。
だけど修也は、その日からサッカー部に顔を出すことはなかった。
教室でどれだけ修也に問いただしても、あいつは何も言ってくれなかった。
俺は、俺は真実が知りたかったわけじゃなかった。
ただあの日から修也が笑わなくなって、俺と目を合わせなくなって。

俺はそれでも修也はきっと俺には話してくれるって信じてたんだ。
今はまだ時間が足らないのだと、修也もまだ整理しきれていないのかもしれないと思って、ずっと待ってた。
修也がいつ帰ってきてもいいように、サッカーだってきっと戻ってくるって思ってたから、帰ってきたときに修也より上手くなっていようと思って、今まで以上に必死に練習してた。

なのに、なんでだよ。

「修也!」
「伊織・・・」

信じられなかった。
2年生に上がっても同じクラスで、俺は嬉しくて。
これからも修也をサッカーに誘おうって思って、きっと戻ってきてくれるって信じてて。
・・・なのに。

「なあ、転校ってどういうことだよ」
「・・・」
「なあ!今日で最後ってどういうことなんだよ!」
「・・・すまない」
「すまない、じゃねーよ!なんなんだよ!なんで、」

今日、帰りのホームルーム中、担任が修也を前に呼んだ。
修也は俯き加減で上手く表情が見えなくて、でもなんだか苦しそうにしていて。
なにかあったのかな、なんて呑気に思っていた。
修也は口を開くことはなくて、担任はただ淡々と、豪炎寺は今日でさよならだと、転校することになったのだと言った。
俺は最初、担任が何を言ってるのか理解できなかった。
・・・でも、修也が一層苦しそうな顔をして、それでも何も言おうとしないから。
本当のことなんだと理解した。

今、修也に問いただしてみて、本当の本当に転校するのだと分かった。
修也はこんな冗談は絶対に言わないから。
人が悲しむ嘘なんて、絶対に言わないから。

「・・・なあ、なんなんだ?お前を悲しませているのは、一体何なんだよ?」
「・・・」
「なあ、修也!」
「・・・お前には関係ないだろ!」
「っ!」

ずっと引っ掛かっていた。
修也がサッカーを止めた理由。
あれから俺を避ける理由。

・・・何かあったんだって、分かってた。
きっと修也にはどうすることもできなくて、そしてすごく悲しく辛いことがあったんだって。
だって、あんな修也を見たの、修也のお母さんが死んで以来だったから。
でも、お前は何も言わずに行っちゃうんだな。
俺に何も教えてくれることなく、サッカーも止めて、俺を置いて。

・・・なあ修也。
関係ないって言葉、すごく悲しいな。
言われた俺もすごく悲しいけど、言ったお前もすごく悲しい顔してるよ。
馬鹿だな修也。
関係ないなんて言うんなら、平気そうな顔しなきゃ、嘘だってすぐ気付かれてしまうぞ。
・・・嘘だって気付いてしまったぞ。

気付いてしまったけど・・・。

「・・・そっか。分かった。じゃあな修也、さよなら」
「っ・・・ああ」
「・・・最後の挨拶くらい俺の目を見て言えよな」

修也は俯いて下を向いたまま俺のさよならに返事をしたから、やっぱ最後くらい顔を見せてほしいよ。
たとえそれが、泣きそうな苦しそうな顔だとしても、さ。
案の定、顔を上げた修也の表情は悲しそうな苦しそうな顔で、今にも泣きそうで。
だから俺は。

「・・・さよなら、伊織」

その言葉に、精一杯の笑顔を向けて、踵を返した。





返してすぐに溢れて流れた涙を、修也には見られていないことを祈って。







 

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